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服装には、前回考えたような身体防護や身体装飾という装身的な働きがありますが、生活活動が阻害されないような留意が必要です。むしろ服装によって生活効率が促進される作用が望ましくなります。このような作用、つまり機能を適応能とします。

生活活動としては、運動などの行動を主体としたことを考えています。したがって適応能としての主体は動作適応です。服装は人間の生活活動に適応することが必要であり、とくに被服の動作適応が大切です。被服材料の面からは弾性のある素材を上手に利用することが進められてきました。

動作適応の原則は、被覆部を少なくし裸出部を多くすることであり、裸体がもっとも動作自由度が大きくなります。裸形に近い武装の古代ギリシヤの戦士はその例です。また人体に密着させるようにした現代スポーツの服装は動作適応を考えた例の1つです。

着装したあとで動作適応のための処置が行われることも多く見られます。動作適応上から見て適当でない和服などでは、着てから裾をはしょる、腕をまくる、片そでを脱ぐ、たすきがけをする、などが例です。下肢被服について、モンペやももひきなどの利用が徳川時代の庶民の服装に現れてきました。

適応能では、生活行動などを妨害しないで行ない易くする被服の働きについて考えることが通常ですが、これらのこととは反対に被服あるいは器具などで身体の行動や動作を制限しようとする例もあります。昔のことですが、ある貴族社会では上位の者は自分が敏速な生活行動をしないことによりその地位の高さを表そうとする風習がありました。自分の足で歩行する必要のない階級であることを示すために、幼児のころから非常に小さいくつをはいて足の発育を阻止していた例などが知られています。日本における十二単の着装などもこれらの例によると考えられます。さらに女性の足に大きな輪をはめて非常に歩きにくくしたアフリカのある地方の例などもあります。このような女性の動作不適応性は男性に対する女性の従属性を示すものとして、いろいろな時代の世界各地で例が見られます。

環境に対する適応性も大切です。環境には自然環境と社会環境とがあります。自然環境は気候・季節また自然の風光などです。とくに季節感覚は被服の形態・構成・容積・重量などの変化や色彩・文様の推移などに反映されます。山高く水清い、そして透明な空気であるスイス山岳地帯には、その地方独特の民族服が見られますし、南欧や暑熱地帯の服飾は、強烈な日光や原色的な花の色に適応しています。

いろいろな地方の風光と民族服との関連性に興味がわきます。社会環境への適応は、社会生活上のさまざまなことがらへの対応が必要です。たとえば社会儀礼上の約束、祭礼・行事の風習などにしたがって、これらに適応した服装をととのえることは一種の社会的規範です。しかし複雑化した現代の社会生活においては、それらに対応して服装も軽装化・簡略化・能動化・機能化など多岐の方向への変化も見られます。

日本繊維製品・クリーニング協議会 会長 角田光雄