ウールについて②【2021年5月】

前回ウールについて➀では、羊の種類について紹介しました。今回は、羊の種類ではなく産地によって名称がついているウールがありますので紹介します。

・フォークランドウール:南米大陸の沖合、南大西洋に浮かぶ英国領のフォークランド諸島で産出されるウール。品質は、自然な光沢があり、ハリ・コシが豊富で、弾力性にも優れていて、バルキーで軽い独特の風合い。生産量が非常に少なく、希少性の高いウール。
・タスマニアメリノウール:オーストラリアの南端タスマニア島で産出されるウール。1829年スコットランドのファーロング夫人が、ドイツのサクソン系メリノ羊をタスマニアに持ち込み純血種のメリノ羊から品質改良を行い、最高級のウールが産出されるようになった。タスマニア島は羊毛生産に理想的な気候の土地と言われている。
・ハミルトンラムズウール:オーストラリア・ヴィクトリア州メルボルン西部で産出されるジロンラム。豊かな牧草地で栄養価の高いミルクで育てられた仔羊の毛。毛足が長く、ぬめり感のあるのが特徴で、白度と光沢も優れている。
・アイスランディクウール:アイスランドの厳しい自然環境で飼育されている羊の毛。厳しい環境で生き抜くため、毛は長くて丈夫で豊富な油分を含んでいる。外側の毛は36マイクロメートル以上と太く、長さは長いもので30センチメートルにもなる。内側の毛は26~28マイクロメートルの細さ。天然繊維にも関わらず竹筒のような中空構造で、反発性が高く、軽く、暖かく、皺になりにくい特性がある。
・シェトランドウール:イギリスの北方スコットランドのそのまた北のシェトランド諸島のウール。毛質はクリンプ(縮れ)性が高く膨らみ感があり、ハリと光沢があり繊維が太く硬めで、海藻を食べて飼育されていることでも有名。羊の毛の色は様々で、他の羊毛と異なり白・クリーム(赤茶)、黒など11色くらいあると知られており、毛と毛を混ぜるだけで多くのカラーを出すことができ、さらにその上に染色することで独特な色合いを出すことができる。

このように一概にウールと言っても、羊の種類、産地によってその品質、希少性、価格、用途が異なっていますのでそれぞれに合わせて使用することが理にかなっていると考えます。なお、羊は「羊毛用」「食用」「羊毛・食用兼用」「毛皮用」に分かれていて、羊毛用は食べてもおいしくないので食用にしないようです。

昔、毛織物製造会社の工場見学に行ったとき、ウールは天然製品のため、その年の気候によって品質の良いものが採取される年と、品質の良くないものが採取される年があるため、原毛時点で3~4年分在庫し、適時混合し毎年の製品に品質の差が発生しないようにしているということ。さらに原毛で1年、糸にして1年、織物にして1年それぞれエージングしてから染色すると織物へのストレスが軽減され、ハイグラルエキスパンションの少ない良好な織物ができるということの説明を受けました。
品質にこだわるためには細心の注意を払っているとのことでした。

ウールの織物に関して言うとハイグラルエキスパンションという、湿度が高いと伸びが生じ、乾燥すると収縮するという性質があります。このため、夏の高温多湿と冬の低温乾燥という状況が繰り返されると縫い目などにパッカリング(縫い縮みやひきつれによる歪み)や芯地使用部分に凹凸がでるなどの問題が生じます。このことを解消するためには縫製工場は、縫製前に生地をスポンジング(生地の緩和収縮の除去)処理をするなど、温度と湿度を管理した状態で縫製しています。
生地段階でハイグラルエキスパンションが大きいと分かった場合は整理工程でデカタイジング(かま蒸し)など事前に処理しています。

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